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江戸時代 潜伏キリシタン 古萩 灰釉屈輪文香合 十字銘(1603–1867CE)

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本品は、江戸時代に萩の窯で焼かれた古萩の香合です。直径約五センチ、高さ約三センチほどの小ぶりな合子ながら、蓋と身の表面には力強い屈輪文様の浮彫が巡らされており、その全体を柔らかな風合いの萩釉が包み込んでいます。蓋の中央には十字紋が刻まれています。長年の使用を経て生まれた穏やかな景色も宿っており、実用品として長く愛用されてきた歴史が静かに感じられます。 

茶の湯の隆盛とともに育まれた萩焼は、桃山から江戸初期にかけて朝鮮陶工の技術を背景に生まれたものですが、わずかな歪みや釉の溜まり、貫入や御本(桃色の発色)といった偶発的な景色を呈します。この香合においても、柔らかく半透明な萩釉が器肌に寄り添い、屈輪文の陰影に微妙な変化をもたらしています。その表面に走る細かな貫入は、時間の経過とともにゆるやかに表情を変え、萩焼特有の表情を映し出しています。

萩という土地は、毛利氏の治世下で長州藩の城下町として栄える一方で、藩内各地に潜伏キリシタンの存在が記録されています。とりわけ長門国沿岸部では、かつて南蛮船が寄港し、キリシタン信仰が密かに伝わったと地であり、萩焼の産地周辺でも、藩政期を通じて禁教の取り締まりが行われた史料が残っています。その頃、潜伏信徒たちは信仰の証を人目に触れぬ形で器物や工芸品に忍ばせ「隠し紋」として、信仰を紡ぎました。この香合に潜む十字紋も、そうした信仰の足跡のひとつと捉えることができます。

この小さな香合を手に取った時、ひっそりと暗がりの茶室で、言葉にせず、信仰を確かめた様子が目に浮かんできました。静かに佇む姿の中に、土地の記憶と信仰の物語が潜んでいます。

w5 x d5 x h3cm

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